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体験談から悟る

介護関係者の言葉を鵜呑みにするな

2019/03/20 鬼塚眞子

介護や相続では“家”問題は、最大のテーマと言っても過言ではない。しかし、介護をきっかけに決断を誤り、取り返しのつかない失敗にまで発展した例がある。悲劇を繰り返さないためのアドバイスと共に実例をお伝えしたい。(文/鬼塚眞子)

画像/123RF

Aさんの父はすでに亡くなり、78歳の母親は一人暮らしをしている。近頃、足元がおぼつかなくなり、転倒が原因で足を骨折したため、入院をした。当初の診断よりも母の骨の付き具合が悪く、入院は4ヵ月に及んだ。
 
長い間の入院で筋力が低下し、足元がおぼつかなくなった母は、まだ認知症状は出ていなかったが、介護認定を受けることとなった。
 
よくありがちな介護関連の間違いのひとつに、介護=認知症だと思っている方が多い。40歳から64歳の方は所定の16疾病と診断された場合は、介護申請を受けられる可能性はあるが、65歳以上は認知症や16の特定疾病だけではなく、トイレ・風呂・歩く・着る・食べる・買い物といった日常生活に支障をきたし、人の手を借りる状態なら申請の可能性は生じる。事実、足元が安定しないという理由で介護認定を受け、介護施設に入居されている方もいらっしゃる。

Aさんの母に後日、下った認定結果は要支援1だった。要支援1とは、食事や排泄などはほとんどひとりでできるが、一般的に、立ち上がりや片足で立ったままの姿勢を保ち続けたり、入浴時などは何らかの支えが必要な状態の方たちだとイメージしていただければいいと思う。

足元がおぼつかなくなると、一人暮らしは転倒して動けなくなる可能性もゼロではない。

Aさんは“介護予防住宅改修”の対象が要支援1・2であることを知り、ケアマネジャーや行政の窓口に相談に行った。

こうした詐欺もあるようなので強調したいことは、工事を終えてから行政に申請しても認められないし、書類行も自分で書くことが絶対だ。手続きや書き方が分からない時は、ケアマネジャーや行政の窓口、あるいは地域包括センターに必ず相談することが重要だ。

“介護予防住宅改修”は行政によって若干違うところもあるようだが、手すりの取り付け、段差の解消、洋式便器への変更、引き戸への扉の変更などが対象となる。

利用者はいったん改修費用の全額を支払い、その後に申請をして改修費用の1割または2割の支給を受けることとなる。

所定の手続きを踏み、Aさんの母は自宅内で手すりを付けることができた。床も転倒しないような材質に介護保険を使って変更したかったが、それでは支給限度基準の20万円をオーバーしてしまうので、貯金でその費用を賄った。

スローペースではあったが、母は以前の元気を取り戻していった。Aさんは母が本格的な介護になるまでは遠い未来のように思えた。

Aさんには、弟がいたが、お互い家庭を持ち、子供が成長するにつれ、実家に足を延ばす回数も次第に少なくなっていった。母の入院の時の見舞いもすれ違いになり顔を合わせることもなかった。

母のことは気にはなったが、Aさんも弟も仕事が忙しいこともあって、都合が付く度に母の様子を見に行った。母の状態は変らなかった。

だが、どうしようもなく変っていくことがあった。それが実家の周辺の店が少しずつ撤退したり、閉店していくことだった。実家の近くにこじんまりしたスーパーがあり、日常生活はそこでまかなえるため、母は困っている様子もなかった。
近所の友達も良くしてくれていることもあって、母は平凡だが毎日を楽しんでいるようにも思えた。

介護認定を受けて1年が経過したころ、Aさんは介護関係者に会って、「いつまで在宅介護をすればいいですか?」と訪ねた。

介護関係者は、「ご家族さんによって違います。最後まで自宅で看る家庭もあれば、施設に入れられる家庭もあります」。すかさずAさんは「では、施設に入れるタイミングはいつにすればいいですか?」と聞き返した。「便を壁にこすりつけたり、夜中に何度もトイレにつれて行かなければならなくなったときに、施設を検討する家庭が多いですね」と15年以上のキャリアを誇る、その人は答えた。「まだ母を施設に入居させなくてもいいですね?」とAさんが聞くと「大丈夫です!!私たちが一生懸命お世話をさせていただきます」と答える介護関係者をAさんは頼もしく思った。

それから7年の年月が経過した。Aさんの母は85歳になっていた。母は転倒・骨折で1年の間に2度も救急車で運ばれることとなり、さすがに実家で一人暮らしをさせることにAさんも弟も限界を感じているようになった。

母には折に触れ、施設の入居希望や終活のことは聞いていたが、「きちんと
している」と少し怒ったように答えるのが常だった。
だが、そうも言っていられない状況になった。母も一人でいることに心細さを訴えるようになった。

Aさんは、母親の資産を知らされて愕然とした。 母親の資産は年金が毎月換算すると10万円、貯金残高は800万円しかなかった。

首都圏に住むAさんと弟は、実家に通う大変さや交通費を思うと、自分たちの近くに呼び寄せようと思っていた。だが、首都圏では平均的な有料介護施設の費用は入居一時金は300万円、1ヶ月の費用は20万円~25万円、入居一時金がゼロなら25万円~30万円というところだ。

仮に1ヵ月25万円×12=300万円となると、800万円なら約2年7ヶ月しかもたない。しかも、費用は施設代以外に雑費などもかかる。資金ショートは明かだった。

普通なら自宅を売却し、施設の費用に充てるものだが、それは泡と消えた。なぜなら、実家の周辺は急速にさびれ、店は1軒もなくなったばかりか、駅も無人駅になってしまった。7年前なら3,000万円以上の値段がついていた実家も、今では売買価格が600万というありさまだった。

冷静に考えれば分かるものだが、首都圏で毎日忙しくしているAさんは、不動産価格が下がることなど思い至らなかった。一方、Aさんの母が入居を希望する介護施設はこの10年ぐらい、大きな価格変動はなかった。
 
Aさんは、弟夫婦はともにバリバリ仕事をしているという理由で、介護の世話をできないと言ってきた。結局はAさんの自宅に母親を引き取り、専業主婦をしているAさんの妻が世話をすることになった。Aさんの妻は子供の手が離れたら、社会復帰をしたいとの夢を持っていた。だが、その夢は先送りになった。

また、母の介護費用は年金と貯金を取り崩す事で賄うと母や弟と取り決めたが、毎日の生活費はAさんが負担せざるをえないことは明らかだった。母も認知症状が少しずつ出始め、施設に入れたくても費用面で不可能となった今、夫婦間は次第に険悪になっていったのも当然だった。夜中に何度も起きるようになった母の世話はAさんが引き受けるようになり、心身ともに疲労のピークに達していった。追い詰められたAさんは、母と親子心中の言葉もかすめるようになったという。

「介護のことは介護関係者に聞けばと思っていたが、介護関係者は、介護の観点からしか答えないのだという事を、身をもって知った。親が介護認定を受ける時は、目の前のことに一杯で先のことなど考えられなかった。不動産価値が下がると親の介護生活に大きな影響を及ぼすことなど思いもよらなかった。ピーク時に自宅を売却していれば、ほかの選択肢も残されていたかもしれない。なぜあの時、介護関係者の言葉を鵜呑みにしたのか。介護関係者のことばは間違ってはいないが、介護関係者は不動産や法律の専門家でないことを再認識すべきだった」と悔しさをにじませる。

Aさんのような悲劇に巻き込まれないためにも、親が介護になったときには、介護関係者に聞くだけでなく、不動産や税務や法律やお金のことも並行してマイホーム問題も考え、包括的に介護生活を考えるのは、今後の新常識といえるだろう。

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