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映画『FAKE』公開記念 森達也監督インタビュー(前編)

天才かペテン師か?「ゴーストライター騒動」佐村河内守の素顔に迫るドキュメンタリー「FAKE」インタビュー(1/2ページ)

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(C)2016「Fake」製作委員会

佐村河内氏の「その後」から何を描くのか

今回は特別編として、現在公開中の映画をご紹介します。この作品の監督は、「タブーに挑む」と称されることが多く、不動産業界のタブーに挑み続けたい「住まいの大学」としては応援したい作品です。

およそ2年前の2014年2月、一大スキャンダルとして日本中の注目を集めた全聾の作曲家、佐村河内守氏の「ゴースト騒動」をご記憶でしょうか? ご紹介するのは、現在、劇場公開中の『FAKE』。佐村河内氏の「その後」を撮ったドキュメンタリー映画です。

★★★『FAKE』公式サイト: http://www.fakemovie.jp/

監督はオウム真理教信者たちの日常を追った『A』(98年)、『A2』(01年)で集団化する社会に一石を投じた森達也氏。「現代のベートーベン」と称された天才から一転、メディアと世間から袋叩きにされた佐村河内氏の日常を通して、森監督は何を描くのでしょうか。単独監督作としては『A2』以来、15年ぶりとなる本作について、森監督にお話を伺いました。

初めて会ったとき「画になる」と直感した

——なぜ佐村河内氏を撮ろうと思ったのですか?

森: 彼のことはゴーストライター騒動が起こるまでまったく知りませんでした。その後も特に興味を持つことはなかったのだけど、彼の本を書かないかと打診されたんです。2014年8月のことでした。

正直、気乗りはしなかったのですが、ならば会うだけ会いましょうと会いに行ったんです。そのときが彼との初対面。2時間くらい話して、最後に「あなたを映画で撮りたい」と言いました。

彼の自宅で会ったんですが、これは画になると直感しました。薄暗いリビングに彼がいて、その横には奥さん、そして猫がいる。窓を開ければすぐ下を電車が走っている。そうしたシチュエーションも含めて、この状況を映画にしたいと思ったのです。特に、奥さんの存在は大きかった。彼女は彼にとってとても大切な存在です。彼を撮るのであれば、奥さんを撮ることは絶対に必要だと感じました。

佐村河内氏の耳は聞こえているのか?

——観る人は、佐村河内氏が「聞こえているのかどうか」を確かめようとすると思います。実際に、「本当は聞こえてるんじゃないか?」と感じるシーンもありましたが、監督ご自身はどう感じていらっしゃいますか?

森: 実際、「聞こえているのでは?」と指摘されるシーンは、観た人によってまったく違っています。たとえば、僕と彼がふたりでベランダに出てタバコを吸うシーンでそう感じたという人もいれば、彼の両親を撮っているシーンでそう感じたという人もいる。本当にバラバラです。

僕も最初の頃は「あれ?」と思うことはずいぶんありました。でも次の瞬間には「やっぱり聴こえていない」と思う。途中で考えるのをやめました。どれだけ「本当は聞こえてるんじゃないか」「いや聞こえていないはずだ」と考えても、すべては仮説に過ぎません。彼にどう見えているのか、どう聞こえているのか、他人には絶対にわからないんです。

考えてみたらそれは当たり前。聴覚はそもそもグラデーションの域にある感覚ですから。彼は感音性難聴と診断されていて、聞こえる音と聴こえない音がある。しかも、その日の体調や気温によっても変わってくる。それに彼は口話ができるから、口の動きでも相手の話していることがわかる場合もある。

でも、それもすべてがわかるわけじゃない。奥さんの口話なら、彼はかなりわかるんだけれど、相手が初対面の人の場合はほとんど読み取ることができない。それに、耳というものは本人が聞こえないと思い込んでいたら本当に聞こえなくなってしまうこともあるそうです。人の感覚はそういう領域です。すべてがグラデーション。ゼロか100かじゃないんです。


(C)2016「Fake」製作委員会

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