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映画『FAKE』公開記念 森達也監督インタビュー(前編)

天才かペテン師か?「ゴーストライター騒動」佐村河内守の素顔に迫るドキュメンタリー「FAKE」インタビュー

2016/06/08 「住まいの大学」編集部

およそ2年前の2014年2月、一大スキャンダルとして日本中の注目を集めた全聾の作曲家、佐村河内守氏の「ゴースト騒動」をご記憶でしょうか? その佐村河内氏の「その後」を追ったドキュメンタリー映画が、現在、劇場公開されています。監督はオウム真理教信者たちの日常を追った『A』(98年)、『A2』(01年)で集団化する社会に一石を投じた森達也氏。単独監督作としては『A2』以来、15年ぶりとなる本作について、森監督にお話を伺いました(前編)。

佐村河内氏の「その後」から何を描くのか

(C)2016「Fake」製作委員会

 今回は特別編として、現在公開中の映画をご紹介します。この作品の監督は、「タブーに挑む」と称されることが多く、不動産業界のタブーに挑み続けたい「住まいの大学」としては応援したい作品です。

 およそ2年前の2014年2月、一大スキャンダルとして日本中の注目を集めた全聾の作曲家、佐村河内守氏の「ゴースト騒動」をご記憶でしょうか? ご紹介するのは、現在、劇場公開中の『FAKE』。佐村河内氏の「その後」を撮ったドキュメンタリー映画です。

★★★『FAKE』公式サイト: http://www.fakemovie.jp/

 監督はオウム真理教信者たちの日常を追った『A』(98年)、『A2』(01年)で集団化する社会に一石を投じた森達也氏。「現代のベートーベン」と称された天才から一転、メディアと世間から袋叩きにされた佐村河内氏の日常を通して、森監督は何を描くのでしょうか。単独監督作としては『A2』以来、15年ぶりとなる本作について、森監督にお話を伺いました。

初めて会ったとき「画になる」と直感した

——なぜ佐村河内氏を撮ろうと思ったのですか?

森: 彼のことはゴーストライター騒動が起こるまでまったく知りませんでした。その後も特に興味を持つことはなかったのだけど、彼の本を書かないかと打診されたんです。2014年8月のことでした。

 正直、気乗りはしなかったのですが、ならば会うだけ会いましょうと会いに行ったんです。そのときが彼との初対面。2時間くらい話して、最後に「あなたを映画で撮りたい」と言いました。

 彼の自宅で会ったんですが、これは画になると直感しました。薄暗いリビングに彼がいて、その横には奥さん、そして猫がいる。窓を開ければすぐ下を電車が走っている。そうしたシチュエーションも含めて、この状況を映画にしたいと思ったのです。特に、奥さんの存在は大きかった。彼女は彼にとってとても大切な存在です。彼を撮るのであれば、奥さんを撮ることは絶対に必要だと感じました。

佐村河内氏の耳は聞こえているのか?

——観る人は、佐村河内氏が「聞こえているのかどうか」を確かめようとすると思います。実際に、「本当は聞こえてるんじゃないか?」と感じるシーンもありましたが、監督ご自身はどう感じていらっしゃいますか?

森: 実際、「聞こえているのでは?」と指摘されるシーンは、観た人によってまったく違っています。たとえば、僕と彼がふたりでベランダに出てタバコを吸うシーンでそう感じたという人もいれば、彼の両親を撮っているシーンでそう感じたという人もいる。本当にバラバラです。

 僕も最初の頃は「あれ?」と思うことはずいぶんありました。でも次の瞬間には「やっぱり聴こえていない」と思う。途中で考えるのをやめました。どれだけ「本当は聞こえてるんじゃないか」「いや聞こえていないはずだ」と考えても、すべては仮説に過ぎません。彼にどう見えているのか、どう聞こえているのか、他人には絶対にわからないんです。

 考えてみたらそれは当たり前。聴覚はそもそもグラデーションの域にある感覚ですから。彼は感音性難聴と診断されていて、聞こえる音と聴こえない音がある。しかも、その日の体調や気温によっても変わってくる。それに彼は口話ができるから、口の動きでも相手の話していることがわかる場合もある。

 でも、それもすべてがわかるわけじゃない。奥さんの口話なら、彼はかなりわかるんだけれど、相手が初対面の人の場合はほとんど読み取ることができない。それに、耳というものは本人が聞こえないと思い込んでいたら本当に聞こえなくなってしまうこともあるそうです。人の感覚はそういう領域です。すべてがグラデーション。ゼロか100かじゃないんです。

(C)2016「Fake」製作委員会

この世界はそんなに単純なものではない

——メディアはそういった伝え方はしませんね。映画のなかでも、佐村河内氏の聴覚障害に関するある事実をメディアが完全に無視していたことが明らかにされています。

森: メディアは「聴えているか聴こえていないか」の二者択一にしてしまいます。騒動前は「全聾の天才作曲家」と持ち上げて、騒動後は「実は聞こえていたペテン師」と叩く。「善か悪か」、「敵か味方か」の二元論です。なぜなら、そのほうがわかりやすくなるし、視聴率も部数も上がるからです。市場原理ですね。

 風景画を描こうと思って絵の具を買ってきて、原色のまま使う人はまずいません。葉っぱを描くのであれば、緑の絵の具だけでなく、黄色や赤を混ぜるはずです。空の色も地面の色も同じ。でも、わかりやすさを優先するメディアは、情報をどんどん単純化、簡略化して、あいまいさを切り捨ててしまう。その結果、世界は矮小化されてしまいます。つまり、葉っぱは真緑で空は青という原色の世界にしてしまっている。本当はもっと複雑で豊かなのに、もったいないです。

 その意味では、現代のドキュメンタリー映画は、情報の簡略化に対するアンチとしての役割を負ってしまったのかなと感じています。つまり、この世界のあらゆることは、そんなに単純じゃないということを示す役割です。本来の役割はそうではないのだけれど。

いろいろな解釈があっていい。それが映画の世界を豊かにする

——今回の映画は、メディアがつくりあげた佐村河内氏のイメージを壊すことで善悪二元論を批判する狙いもあったのでしょうか?

森: 作品をつくる以上、観てくれた人に「このように感じてほしい」「こういったメッセージを届けたい」という思いはもちろんあります。でも、それは口が裂けてもいいません。だってこれは映画です。ジャーナリズムではない。いろいろ想像したり考えたりしてもらうためにつくったのだから。

 仮に僕が思っていたこととまったく違う受け取り方をされたとしても、それは気になりません。僕は佐村河内守を撮っているのだけれど、画面のなかにはいろいろなものが映り込んでいます。奥さんがいて、猫がいて、ときには出演依頼にきたテレビ局の人が出てきて、いろいろな動きや表情をしている。僕の意図とは別に、そちらを見て何かを感じる人もいるわけで、そこまで僕がコントロールすることはできません。僕としては、なるほどそういう見方もあるのかと驚くけれど、それはまったく悪いことではなくて、むしろ僕の意図をより一層、豊かにしてくれるものだと思っています。

——いろいろな解釈があることで、作品の世界が広がるということですか?

森: それが映画です。それに、僕が伝えたいことと180度、真逆の受け取り方をされてしまうような撮り方はしていません。その自信はある。

 今回は、「FAKE」というタイトルのせいもあって、仕込みだらけのやらせに近い映画だと思っている人もいるようですが、僕はそんな撮り方はしません。それではつまらないものになってしまうから。

 その意味では、僕は撮影対象に対して誠実でありたいと思っているし、それをどう解釈するかは観た人によってそれぞれでいい。というか、それが当然でみんなが同じ解釈や同じ感想をもっていたら気持ち悪い。観た人が、僕が意図していないような受け取り方をしてくれれば、僕の伝えたいことはより豊かになるはずです。

(後編に続く)
後編はこちら→ http://sumai-u.com/?p=5359

映画『FAKE』、公開情報

■『FAKE』 監督・森達也
東京:角川シネマ新宿(http://www.kadokawa-cinema.jp/shinjuku/)
9月24日(土)~9月30日(金) 17:55-
10月1日(土)以降も続映、10月7日(金)まで
 
◇◇公開中◇◇
*沖縄県那覇市:桜坂劇場(http://www.sakura-zaka.com/)~9月30日(金)まで
*埼玉県深谷市:深谷シネマ(http://fukayacinema.jp/)~10月8日(土)まで
 
◇◇明日より、下記上映で上映開始◇◇
*愛知:名古屋シネマテーク(http://cineaste.jp/)
 アンコール上映 9月24日(土)〜9月30日(金)
*静岡:浜松 シネマイーラ(http://cinemae-ra.jp/)
 9月24日(土)〜10月7日(金)
*新潟:十日町シネマパラダイス(http://www.t-cinepara.com/)
 9月24日(土)〜10月7日(金)
*兵庫県:宝塚シネ・ピピア(http://www.cinepipia.com/)
 9月24日(土)〜10月7日(金)
――9月25日(日)16:10より森達也監督による舞台挨拶あり!

今回の「この人」は…

森達也(もり・たつや)
1956年広島県生まれ。オウム真理教信者たちの日常を追った『A』(98年)、『A2』(01年)、フジテレビ「NONFIX」枠では『「放送禁止歌」〜歌っているのは誰? 規制しているのは誰?〜』などでタブー視されていたテーマに挑む。『「A」撮影日誌』(現代書館)、『職業欄はエスパー』(角川書店)など著作も多数。近刊では初の長編小説作品『チャンキ』(新潮社)がある。

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