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空間と心のディペンデンシー

広い家は良い家か?(1/2ページ)

遠山 高史遠山 高史

2019/04/17

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娘夫婦が家を探しているという話があった。頭金の協力をするのはやぶさかではないが、昔からせっかちなところがあったので、よく吟味するよう忠告した。

その際に、気になったのが「広い家」というキーワードである。娘が「広くて、天井が高い家」としきりに言うので、「広い家がそんなに良いものか」と思った次第である。

知人の話――。

長男夫婦が、大げんかをして離婚寸前になった。長男夫婦の住まいは、2LDKのさほど広くないマンションなため、離婚寸前になった険悪な二人を収めておくにはかなり狭い。

そのため長男から、しばらく父親宅に泊めてもらえないだろうかと頼まれたという。しかし、すでに次男の家族と同居しているし、戸建てとはいえ、空いている部屋があるわけでもない。とてもそんなスペースはない。聞けば、外泊を繰り返し、妻とはもう1か月近くもまともに会話をしておらず、ホテルに泊まるのも金銭的に限界とのこと。

知人は最悪の結果も考えたそうだが、説教混じりに、長男のためのスペースはなく、マンションにきちんと帰り、仲直りをするようにと伝えた。

数日後、心配なって連絡をすると、あっさり「仲直りした」という返答。理由を聞けば、険悪な状態であるがゆえに、妻のほうも掃除もおろそかになり、部屋は散らかり放題。場所が選べず、仕方なしに布団を並べて寝たところ、少しずつ会話が戻り、最終的に双方、一体何に腹を立てていたのか忘れてしまっていた、らしい。

憮然としながら話す知人の顔に、安堵の色が垣間見られたのは言うまでもない。狭い部屋が夫婦の諍いを収めたというのは面白い。もしも「広い家」に住んでいたら、この夫婦の距離は縮まず、別の結果になっていたかもしれない。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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