ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

空間と心のディペンデンシー

快適な「住まい」と心ゆたかな「生活」(1/2ページ)

遠山 高史遠山 高史

2019/05/20

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

イメージ/123RF

昔、娘がハムスターを二匹買ってきた。友だちからペットの話を聞いて羨ましくなり、小遣いでなんとかしようと算段した結果、安価なハムスターを選んだようだ。ただ、うかつなことに、ケージや巣箱など飼育に必要なものをまったく考慮していなかったようで、慌てて物置から使っていない水槽をひっぱり出して、彼らの住まいを作った。ペットショップの店員の話では両方ともメスだと言われたという。

御多分に漏れず、娘はたちまち世話係を放棄して、それは私の仕事になってしまった。妻の意向で、あろうことか水槽は私の書斎に設置されることになった。山の神には逆らえぬ。私は粛々として世話係を受け入れた。

彼女らは日がな、水槽に敷いてあるオガ屑を掘ったりなどして過ごす。ハムスターの中でも小さな種類らしく、手のひらにすっぽり収まるくらいで背中にウリボウのような縦縞がある。

小さいとはいえ、やはり生物で、2日も放っておくと糞尿が匂いだす。もちろん、掃除も私がやる。オガ屑を入れ替え、餌箱を洗って、野菜くずを入れてやる。私の手からひまわりの種を口に運ぶ様は、なかなかに愛らしい。

こうなってくると、俄然愛着が出てきて、水槽にいろいろと手を入れることにした。オガ屑は少ないより多い方が好みのようなので、たっぷり入れてやる。どうやら、乾燥地帯が原産らしく湿気を嫌うので、飲み水の周辺はこまめにオガ屑を変えてやったりと、快適に過ごせるように、あれこれ試行錯誤した。心なしか彼女たちも楽しげにしている。

そうこうしていると、いつも決まった場所にオガ屑が積み上げられていることに気がついた。オガ屑の山を崩すと、中で2匹が丸まって眠っている。どうやらここが寝床のようだった。掃除の度に、マイホームを崩しては気の毒と、寝床のあたりは、しばらく掃除を控えることにした。

ある朝、そろそろ、巣箱を大掃除しようと、オガ屑の山をかき崩した私は瞠目した。2匹であるはずが、そこから飛び出したのは、大小5匹。

彼女たちは、実際は彼と彼女だったわけだ。小さなハムスターは雌雄の区別がつきにくく、店員も嘘をついたというよりは、「恐らく」という副詞をつけるのを忘れたのだろう。

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

ページのトップへ

ウチコミ!