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業界の悪しきカルチャーを暴く(6)

築20年ですべて資産価値ゼロという理不尽な慣習

大友健右大友健右

2016/03/28

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住宅の価値は購入した瞬間から下がり始める

以前、会社のスタッフから、こんな話を聞いたことがあります。

「大友さん、聞いてください。以前、解体工のバイトをしたことがあるんですが、ある日、日野市の現場に呼ばれると、新撰組の志士にゆかりのある土蔵を解体する仕事だったんです」

この話を聞いたとき、私はとても驚きました。元の持ち主が亡くなって、物件を相続した人が土蔵の価値を認めずに取り壊したのか、それとも相続税を払いきれずに売却してしまったのかはわかりませんが、いずれにせよ、歴史的な価値のある建物が解体されてしまっているという事実にショックを受けたのです。

そのような歴史的な価値のある建物であってもそのような扱いなのですから、一般の住宅となるとなおさらです。

日本の住宅は、購入した瞬間から価値が下がり始め、木造建築なら築20〜25年になると資産価値はゼロと見なされてきました。ためしに築20年ほどの住宅を不動産業者に査定してもらうと「これは土地値になっちゃいますね」と言われるはずです。

考えてみたらおかしな話です。住宅ローンは30年とか35年も払い続けるのに、築20年になると住宅の価値はゼロ。理不尽な話に感じるのは私だけでしょうか?

不動産会社はデジタルな評価しかしない

でも、不動産業界では昔からそれが当たり前とされていました。たとえ築20年の家でも、家によって傷み具合は違います。定期的に点検・補修をしてきた家やリフォームをした家であれば十分に価値があるはずです。しかし、どれだけ大事にされてきた家であっても、「もったいないですよ。まだまだ住めますよ」と不動産会社のほうから働きかけることはまずありません。

日本の住宅は30年も経つと取り壊して建て替えるのが普通になってしまっています。国は中古住宅の流通を活性化しようとしていますが、いまの「不動産の流通・取引構造の欠陥」がそれを阻む要因になっているのは、以前の記事で述べた通りです

(参考記事)
不動産市場に優良な中古物件が出まわらない本当の理由

消費者の根強い新築志向も影響していますが、築30年を待たずにスクラップ・アンド・ビルドを繰り返す不自然極まりない日本の住宅事情を助長することに不動産業界が手を貸してきたことは間違いないでしょう。

そしてその大きな原因が、不動産業界の長年の商習慣、すなわち個別の住宅の価値を評価しようとせず、「築20年で資産価値はゼロ」「築30年で取り壊し」といったデジタルな判断しかしてこなかったことにあるのは論を待ちません。

もちろん、そうしたデジタルな評価をすべて否定するつもりはありません。ですが、不動産のプロとして個別の物件の価値をしっかり評価し、流通の活性化を図ることが、結果として消費者の信頼を回復し、不動産業界全体の利益につながるのではないでしょうか。

物件には数字で計れない価値がある

不動産会社の営業マンだった頃の私がこだわっていたもののひとつに「バーバキュースペース」があります。私が企画、販売に関わった住宅にはすべてバーベキュースペースをつくっていたのです。

それはなぜかといえば、お客さんは単に住宅という「モノ」を買っているのはないという考えが私にはあるからです。
お客さんは住宅を買うことで、その先にある「幸せな生活」を手にいれたいと考えているはずであり、それが住宅を買うことのゴールであると私は思っています。そして、自宅のバーベキュースペースで家族そろってバーベキューを楽しむというのは、私が考えるお客さんに味わっていただきたい「幸せな生活」のひとつの形だったのです。

実際に、物件の案内をした多くのお客さんが「バーベキュースペースがありますよ」という私の言葉に目を輝かせた瞬間を何度も見ています。それが芝生の広がる大きな庭でなくても、猫の額のような小さな庭だったとしても同じ反応が返ってきたのです。

つまり、物件の価値は、「築○○年」「○○平方メートル」「○LDK」といったデジタルな価値だけでなく、「ここに住むとどんな未来があるのか」という数字で計れないアナログな価値も含まれるのです。

これから住宅の購入や売却を考えているみなさんは、そのことを心のなかに留めておいていただければ、不動産業者の言葉に惑わされず、後悔しない住まい選びに近づくことができるのではないでしょうか。
大切なのは、あなたの価値観、感性なのです。

今回の結論
●日本の住宅は「築20年で資産価値ゼロ」という一律な評価しかされないできた。
●その大きな原因は、不動産会社が物件をデジタルに評価するだけで、アナログな価値を評価してこなかったから。
●しかし、物件の価値には数字にできない価値が含まれており、それが住む人の幸せにつながる。

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この記事を書いた人

株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。

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