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週末は田舎暮らし! を始めよう(20)

都会で投票? 田舎に納税? 週末田舎暮らしの住民票問題

馬場未織馬場未織

2016/07/15

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「週末暮らし」の場所で、投票しています

この前の日曜日は、参議院議員選挙でしたね。

みなさんは投票、行きました?
これを書いているのは投票日より前ですので、開票結果は知りません。さて、どうなっているかな。

わたしは、7月3日に期日前投票をしてきました。南房総で。

二地域居住を始めてしばらくしてから、東京から住民票を移しました。農家資格を取得する都合などあったのですが、取得後もずっと千葉県南房総市に住民票を置いています。
わたし以外の家族はそのまま、東京です。

「お母さんだけ住民票が違うところにあって大丈夫なの?」と言われましたが、いまのところ大きな不都合はありません。南房総市民になった後に末娘を妊娠、出産したので、彼女の母子手帳だけは南房総市発行のもの。それも一興です。

月末には東京都知事選があるけれど、わたしには投票権がないですね。笑。

直球で「ふるさと納税」したいから

住民票を、週末しかいない南房総のほうに置くメリットは、それほどありません。

千葉県で登録するNPO法人を主宰している立場として動きやすい面は多少ありますが、ほかに南房総市民だからといって、いい思いをした覚えは特にないですね。

ではなぜ、住民票を移しているかといえば、これは納税の話でして。

南房総のほうに、納税したいからです。
いってみれば、直球で「ふるさと納税」をしているということですね。

巷では「ふるさと納税」の特典についての情報が賑やかです。
ふるさと納税サイトをのぞいてみると、あの地域は和牛だ、マンゴーだ、こっちは宿泊券だ、とか、まるでお中元のページのように地域の特産物をぞろっと見ることができます。自分の好きな場所を選択して自由に寄附ができ、2000円を超える寄附については住民税や所得税から一定の控除が受けられる場合があり、しかもお礼に特産品をもらえるのですから、いいことづくめのようです。

一方で、そのお礼をどんどん豪華にするという自治体間の競争が過熱し、寄附で元をとれない事態まで引き起こしているという話も。

寄附する立場としては願ったり叶ったりの話ですが、こうなってしまうと寄附ではなく「豪華なお礼目当て」の行為にすり替わっていきます。

さらに、住民税が控除されるということは、自分の居住地の地方自治体の収入が減少することにつながっているという、皮肉な因果関係も。

というわけで、わたしのように、二地域居住によってホンモノの「納税」ができる場合は、それをちゃんと納めるのがいいのかな、と思った次第です。

どちらの地域でも、権利と義務があるべきでは

納税という義務、投票という権利。

これらの行使される場所を、「平日暮らす地域」にするか、「週末暮らす地域」にするか、いろいろ悩んだ上で選択しているわけですが。

できればそんな葛藤以前に、「どちらの地域にも関われればいいのに」というのが本音です。

南房総に住民票を置いているからといって、東京の居住地に思いがないわけではありません。子どもたちの学校があり、平日の暮らしや仕事がある場所ですから、選挙権がないのは残念です。

現行のシステム上、しかたがないので、夫は東京、わたしは千葉に住民票を置くことで夫婦で分担しようと考えてやっていますが、厳密にいえば、権利や義務は世帯単位ではないですものね。

国土交通省は来るべき本格的な人口減少への対策として「二地域居住」を推進しているといいます。しかし本気で推進するのであれば、二地域居住者・多地域居住者の投票地や納税地についての新しい考え方を導入してもらえないだろうかと、思っています。

たとえば、投票権を0.5ずつに分けて、わたしの場合だったら東京と千葉のどちらでも行使できる、とか。

納税もふたつの地域で按分できる、とか。

これは、わたしのオリジナルの考えではありません。
鈴木健著『なめらかな社会とその敵』(勁草書房)のなかに、「伝搬委任投票システム」という考え方が記されています。国籍を選ぶ、ということをせず、0.2票が日本人、0.3票がフランス人、0.5票が中国人、と分割したり、「この件はわたしは詳しくないから0.7票分は信頼する山田さんに委任しよう」ということができたり、「うーん、こっち党とあっち党、どちらに入れるか悩むなあ」となったら、こっち党に0.6票、あっち党に0.4票入れる、など悩みをそのまま投票に表したり。
 
複雑な世界を複雑なまま生きることが可能か、ということを問題にした本で、一般的な暮らしよりも少しだけ複雑な自分自身の立場を思いながら読み進めました(やや難解ですが面白いので、よければ読んでみてください)。

ひとりの人間が多拠点で義務を果たし権利を行使する仕組みづくりは、おそらく技術的にはいまも可能でしょう。しかしいまはまだ、そんな世界の到来は遠い未来に感じられますね。

というわけで、今度の都知事選挙は、わたしは蚊帳の外です。

投票に行く夫に、窓際で手を振るか。
投票所の中学校まで一緒についていって、校庭で鉄棒して待ってようか。
「わたしは入れられないんだから、投票権がある人はみんな選挙に行ってよね~」と思いながら、7月31日は寂しく暮らすことにします。

(実は皮肉なことに、二地域居住が疑惑の種になって辞任した某前都知事に、某会議でこのシステム導入を提案したことがあるんですよね。次の方にも、また言わなくちゃ。笑)

 

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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