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既存のサービスを利用して「地方」を体験

まちづくりや地域活性化に貢献したい人にオススメのプログラム

馬場未織馬場未織

2016/01/04

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「地域に溶け込めなかったら…」の不安を解消する

 殺伐とした都会の人間関係がつまらなく思えたり、仕事と家との往復ばかりの生活に味気なさを感じたり、もっと地域に根付いた暮らしをしてみたいという願望が都市生活者には多くあります。もっとコミュニティが生きている地方に移住して、地域づくりにかかわってみたい!そんな思いを胸に秘めている人もいるでしょう。

 とはいえ、見知らぬ土地に単身で乗り込み、地域に溶け込むのはけっこう大変です。そこでオススメなのは、ある程度「お膳立て」されたプログラムを利用することです。過疎地域の人口流出を食い止めたい。都会の人や若い人を呼び込みたい。そうした思いは全国各地にあります。地方では、俗にいう「ヨソモノ・ワカモノ」の新しい視点が歓迎されているのです。「移住」を切り口にしなくても、ちょっと探せばさまざまな機会を見つけることができます。代表的なものを2つ紹介しましょう。

地域の力を高める「地域おこし協力隊」

 「地域おこし協力隊」は総務省が2009年度から始めた事業で、都市部の人が概ね1~3年の任期で過疎地域の自治体に委嘱され、地域活動に取り組む制度です。活動地域は北海道から沖縄まで全国津々浦々。地域活動の内容も、地場産品や地域ブランドの開発・販売・ PR、農林水産業、住民の生活支援など多岐にわたります。

 もちろん地域や活動内容は、できるだけ本人の希望がかなうように丁寧なマッチングをする仕組みです。無給のボランティアではなく給与が出ますから、贅沢をしなければ、任期中の生活費に困ることなく活動に専念できます。

 過去の参加者の属性を見ると、性別は約4割が女性で、年齢層を見ると約8割が20~30代です。受け入れ条件は地域によって異なります。若者限定で募集している地域もある一方で、50〜60代でも歓迎とか、年齢制限のない地域もあります。

 受け入れ地域の多くは高齢化・過疎化が進み、新しい知恵や活力を切実に必要としているところばかり。体力のある若者はもちろん、ビジネスパーソンとしての経験や、働き盛りの斬新な発想力も大いに歓迎されるのです。

 とはいえ、行政主導のやり方が原因で地域とのトラブルが起きたり、熱意をもって飛び込んだはいいけれど、地域の人たちとの温度差に戸惑い、コミュニティにうまく入り込めない場合も少なくないようです。「地域おこし協力隊」という入口を入った先では、その地域での暮らし方をよく知り、自分なりのスタンスをつくっていきましょう。

 現在(2015年11月)募集中の案件で、幅広い年齢層に門戸を開いているのは、熊本県荒尾市の農産業振興/観光振興支援コーディネーター(20〜50歳未満)、静岡県伊豆市の伊豆市産鹿革を利用した製品開発デザインと販路開拓活動(20歳〜上限なし)、奈良県奈良市の移住定住促進事業(20〜45歳まで)などがあります。これはほんの一例です。

 任期終了後に地域に定住する人が6割にのぼるといい、本格的な移住の足がかりとして、この制度を利用することもできるでしょう。「地域おこし協力隊」のサイトでは、地域や活動内容別に募集中の案件を検索できるので、自分の興味がどの辺にあるのかを見極めるためにものぞいてみると面白いはずです。

 なお、似たような趣旨で総務省が行う事業に「地域おこし企業人」という制度もあり、こちらは企業に籍を置いたまま、派遣という形で地域活動に貢献するプログラムです。もし勤務先に制度があれば、いっそう安心して移住体験ができるでしょう。

やりがい満載の「課題先進地域」へGO!

 いま、最も新たなまちづくりが求められている地域といえば、東北かもしれません。2011年に発生した東日本大震災からずいぶん経ったようにも思いますが、地域の復興はまだまだ道半ばです。そこで、東北の復興を支援し、より強く、柔軟な地域づくりを目指すために生まれたのが「WORK FOR 東北」です。復興庁と協働しながら日本財団が運営を担う人材派遣プロジェクトです。

 活動先は、被災自治体のほか、観光協会、商工会議所・商工会など、被災地域に拠点を持つ公益性の高い民間団体がメインです。復興支援にかかわる公益性の高い業務を担当する人が求められています。地方と言っても、奥山の農村部ではないので、町暮らしの利便性は損なわれず、東京圏よりは少しゆったりとした暮らしができるのかもしれません。

 「WORK FOR 東北」が特徴的なのは、経済3団体も協力し、企業からの派遣に力を入れている点です。期間は概ね1〜3年間で、週5日の常勤か常勤に近い勤務形態が中心です。派遣元企業にとっては、通常業務では経験できない環境に社員を送り込むことで、貴重な研修機会になりますし、派遣される人にとっては、現在の勤務先の所属のまま、いわば出向のような形で地域の復興という未知のプロジェクトに挑戦できるのがメリットです。もちろん、いったん今の仕事をリセットしてよければ、個人として応募することもできます。

 少子高齢化や人口流出、地場産業の衰退など、日本の地方の問題が集積している「課題先進地」である東北で地域づくりに取り組むことで、地域を作るという仕事の本質に触れることができますし、地域のために頑張ることがいつの間にか自身の実力や人間力の向上につながっていくことにもなるでしょう。

 都市部の人材が欲しい地域と、地方の活性化に貢献したい人をつなぐプログラム。せっかくこうしたマッチングサービスがあるのですから、活用しない手はありません。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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