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【家族信託活用事例】財産は一族で承継させたい――子どものいない夫婦の相続で揉めさせないために(1/2ページ)

谷口 亨谷口 亨

2020/01/22

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イメージ/©︎123RF

相続する財産は、一族のものという意識はまだまだ多く、「嫁の家に取られたくない」「婿の家族のものになるのは嫌だ」というご相談をいただくことがあります。なかでも資産を相続する息子や娘に子どもがいないというケースで、トラブルになりがちです。具体的には、自分が死亡したあとに子らが財産を引き継ぎます。次にその子らが亡くなると、その財産は配偶者に引き継がれ、そのまた配偶者が亡くなったあとは、その配偶者の親・兄弟姉妹が財産を引き継ぐことになり、財産が他家に渡ってしまうというわけです。

そんなご相談のケースをご紹介しましょう。

<相談内容>
相談者=山田道子さん(仮名)85歳
相続人は長男、次男

山田:長年、長男夫婦と同居しています。お嫁さんもとてもいい人で、仲良く暮らしています。ただ、長男のところには子どもがいないのです。自宅と土地は夫が亡くなったとき、私が相続しました。実は長男は病気がちです。私の心配は、私が死んだあとに長男も亡くなったら、自宅はお嫁さんが相続するということなのです。お嫁さんにはもちろん住み続けてもらいたいので、それはいいのです。ただその後、お嫁さんがいつか亡くなったら、我が家はお嫁さんの兄弟のものになってしまいますよね。

谷口:お嫁さんが自宅と土地を相続した場合、法律ではお嫁さんが遺言を書かなければ、お嫁さんの兄弟に財産が渡ってしまいます。

山田:そうですよね。先日、長男と話したときも「うちは昔の大地主というわけでもないし、誰に相続させるとか考えなくてもいいだろう。考えても仕方ないことだ」と長男は言います。長男にしたら、自分がなくなったあとの話ですから、いい気持ちはしませんよね。かわいそうなことことをしました。でも、なんだか気持ちの整理がつかなくて……。

谷口:山田家の資産が、将来他家に渡ってしまうのは避けたいということですね。

山田:はい。土地は主人のおじいさんに当たる人が、その昔買い求めたもので、このあたりではかなりの敷地があります。今の家は私と夫が若い頃、一生懸命働いて建てたものです。

谷口:先祖の土地と夫婦で力を合わせて建てた家ですね。

山田:お嫁さんを追い出すつもりなんてまったくないんです。ただ、いずれ血のつながった家族に、この土地を引き継いでもらいたいと、それだけなんです。

谷口:血のつながったご家族? 次男さんのことですか。

山田:ええ、次男には男の子が一人おります。私のたったひとりの孫です。どうにか、いつの日か孫に渡せないかと。遺言はどうでしょうか?

谷口:遺言は財産の承継先の指定が1代限りですから、山田さんの遺言は、息子さんたちへの指定ができますが、その先はできません。

山田:じゃあ、もし息子が亡くなってお嫁さんが残されたら、その時点でお嫁さんに「次男の息子に相続する」と遺言を書いてもらったらいいのでしょうか。

谷口:それも一つの方法です。

山田:でも、きっと長男から「そんな先のこと!」って叱られてしまうでしょうね。私だってお嫁さんにも嫌な思いをさせたくない。何か、いい方法はありませんか。

谷口:財産承継について何もしなければ、山田さんの希望を叶えることはできません。山田さんのご希望に添える方法を考えてみましょう。

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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