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空間と心のディペンデンシー

求める理想によって、こころが病む(1/3ページ)

遠山 高史遠山 高史

2020/01/31

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仕事ができるセールスウーマンを襲った「うつ病」

K子さんは、ある服飾メーカーのセールスウーマンだったが、気分が沈みがちになり、遅刻や欠勤をするようになった。上司の勧めで病院に行くと「うつ病」と診断された。
思い余って会社を辞めようかと思ったが、K子さんの実績と貢献度から、社長の采配でパートとして子会社の出荷部に配属されることになった。

K子さんは、几帳面で仕事はソツなくできるし、少し遅刻はするが、何か事情があるのだろうからと、事務所のスタッフたちはK子さんを快く迎え入れた。最初のひと月は何事もなく過ぎたが、そのうち、K子さんの遅刻が増えてきた。一週間に一度が、三日に一度になり、ほとんど毎日になった。ひどい時は、昼過ぎに出勤するようになった。

そんなある日、親会社から電話があった。受けたのはK子さんであった。内容は伝票の日付を変えて欲しいという他愛ないものだったが、電話を切るなり、K子さんは泣き崩れ、驚くスタッフたちを尻目に事務所から飛び出し、その日は、終業まで事務所に帰って来なかった。

さすがにこのままでは問題になると、K子さんと年齢の近いスタッフがわけを聞くことになった。

K子さんは、同じ営業部の後輩と密かに付き合っていて、結婚を考えていたという。しかし、ある日、別れ話を切り出された。その男性と別れてからというもの、食欲はなくなり、何をしても気分は晴れない、夜眠れず、朝は布団から出ることができない。ようやく出勤できたとしても、彼の姿が目に入ると泣けてくる。職場が変わっても、彼を思い出すとつらくなる。この前の電話は、その元彼本人からだったから、こらえきれず事務所を飛び出してしまったというわけだった。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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