連載・トピックス / 不動産投資

ソフトバンクGの決算予想も大幅引き下げ

「WeWork」危機がオフィスビル需要を冷ますこれだけの理由

2019/10/22 浅野夏紀

文/浅野夏紀

世界規模でシェアオフィスを展開する「ウィーワーク」のIPO延期

堅調だった日米のオフィス需要の潮目が変わった。その火元は不動産に関心があっても聞きなれない名の企業、「ウィーワーク(WW社)」だ。NY証券市場でのIPOの延期、事実上の失敗による危機だ

実はその会社の親会社は、あの「ソフトバンクグループ」なのだ。このところ連日、「ソフトバンクGが金融支援案」「支援金額は総額50億ドル(約5400億円)規模」という記事にお目にかかる。では、同社が惚れ込んで出資したWW社とはどんな企業なのだろうか。ソフトバンクの携帯・通信事業から連想できるようなIT関連企業なのか?
いや違う。簡単にいえば、高級オフィスを世界中で次々と借りて、個人事業者向けに貸し付けるサブリース(オフィス床の転貸)業者のチャンピオンなのだ。小規模事業者向けの「シュアオフィス」(共同利用事務所)のビジネスモデルとしてはすでにあったのだが、WW社はすでに世界規模である点が飛びぬけている。

例えば、米ニューヨークの中心街、マンハッタンオフィス賃料は右肩上がりで、夏場までそれを牽引していたのがWW社だった。このほか、米国西海岸のシアトルなど全米の主要都市でオフィス相場(事務所賃料)を押し上げ、下支えしてきた力持ちの期待の企業だったともいえる。
中東のオイルマネーを取り込んで、世界的な超大型の投資会社(投資ファンド)化したソフトバンクGが育ての親といえる。こうした支援を受けて上場前に規模が大きくなりすぎてこの9月の株式上場計画(IPO)が失敗。「期待外れだ」と投資家に見放され、資金の流出が起きた。このため、10月からはダイエットならぬ、厳しい事業の規模縮小を迫られている。
 
WW社は上場延期に追い込まれた結果、本業はまだ赤字だけに銀行などの融資による資金調達が綱渡りの状態だ。共同創業者アダム・ニューマンがすでにWW社のCEOを辞任し、新経営陣は従業員の最大3割削減など、拡大路線の見直しとリストラに着手したが、信用不安的状況はまだ止まらないようだ。

シェアオフィス・ビジネスへの期待、ベンチャーの夢物語を一気に冷ます

すでに米国で、ビルを借りる契約を留保し、衝撃が走った。何しろ、WW社は米国全体でのシェアオフィス面積の年間増加分のうち、同社関連で借りた比率は、一時5割超と圧倒的だった。アジア、欧米も含めた世界でもトップシェアを誇った。このため、世界中の有力ビルオーナーからモテモテの存在だった。WW社は、15年ほどの長期契約で物件を借りてくれる点もビルオーナーに人気。一方、転貸する共同オフィスに入る客(事業者)は月単位で利用できる手軽さがウリだった。
そして、この問題が10月に入ってなんと日本の不動産市場にも飛び火してそうなのだ。

9月、ソフトバンクGによるWW社への出資打診を都内の大手不動産会社などが相次いで断っているようだ。その影響は、上場するソフトバンクG本体の今季決算にも影響している。ソフトバンクGの2019年4~9月期の決算発表前に、一部証券アナリストがソフトバンクGの今期の営業利益予想を一気に数千億円単位で引き下げてしまい、東証で衝撃が走っている。
市場では「ソフトバンクGは、業績の動きが激しい投資会社としての色彩が強まった」と警戒する。ソフトバンクGなどによる累計100億ドル(1兆円)超の出資を元手に事業を急拡大したWW社は、ソフトバンクGばかりか、日本のオフィス・不動産市場にも連結されてしまったといえる。

このままでは、WW社の上場前の一気の事業拡大で、『所有から利用・共有に』というシェアオフィスへの期待も冷え込みかねない。そうなると、世界的な超金融緩和の下で楽に資金調達ができてきたベンチャー企業にとっても、「明日は我が身」となり、事業の逆風になりかねない。
「企業が成長を遂げる場所が上場市場から未公開株市場へとシフトした!」という気の早い大型未上場企業の夢物語――その象徴がWW社だった。
WW社では、470億ドル(約5兆円)と評価された企業価値は、初期の資金調達時の480倍以上にもなっていた。

ソフトバンクGが握る日本の不動産業界への影響力

では、なぜこんなことが起きたのか?
やはり、世界中の投資市場にマネーがあふれ、規制が厳しい上場を選択しなくても、ソフトバンクGなどから大規模な資金を得られるという「新しい時代のユニコーンベンチャー神話」を警戒する投資家がいなかったからだ。
ユニコーン企業とは、WW社のように、評価額が10億ドルを上回る非上場、設立10年以内のベンチャー企業だが、大きくなっても配当原資に見通しが立たなければ、投資家を欺くことになる。
そして、そのツケが実物のオフィス・不動産市場にも及んできたといえる。
WW社は日本で20拠点以上を運営し、再開発ラッシュの東京では「近日オープン」の物件も多いこともあった、ビルオーナーはWW社の事業の行方に気をもむばかり。WW社のテナントはソフトバンク系が目立ち、ソフトバンクGが手を引くと日本の不動産業界にも痛手だろう。
都内ではWW社が核テナントとして入るビルが水面下で売り出されたともいわれ、業界では「シェアオフィスやオフィス改革ブームの失速」までが懸念される。

オフィス相場の高値を支えてきたWW社は今やその逆の役割を演じているわけだ。「孫さんはいつ損切りして、WW社と手を切るのか?」を不動産業界は息を飲んで見守っている。
10月に入って、水面下で売りに出される新築ビルも出てきたという。「WW社が入っているから?」と疑心暗鬼にもなりかけている。
それでなくても景気の遅行指数のオフィスの賃料はこのところ頭打ちで、空室率が上がる懸念はこれからが本番なのだ。

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